日本画は日本の文化や歴史、風土を繊細かつ深い視点で表現した画派として多くの人々から愛されています。
今回は、日本画の魅力を十分に堪能できる大阪の美術館を紹介します。
大阪市立美術館
大阪市立美術館は、日本や東洋の古美術品を中心に約8,500点を所蔵しており、日本屈指の質の高さを誇る歴史ある美術館です。
大阪市美術館につきましては、以下の記事で詳しくご紹介しております。
合わせてご覧下さい。
大阪中之島美術館
大阪中之島美術館は、1990年に準備室が設置されてから30年もの年月をかけて2022年2月に開館しました。
19世紀後半から21世紀の現代までの近代美術・現代美術を収集・保管・展示することを目的としています。
建物は、「パッサージュ passage(フランス語で歩行者専用のアーケードで囲われた通路や自由に歩ける小径のこと。)」をコンセプトとした遠藤克彦氏による設計です。
1–5階まで吹き抜け天井から柔らかく光が降り注ぐ立体的な空間になっています。
大阪中之島美術館では、季節ごとに特別展を開催しています。
カフェやショップも併設されており、オリジナルグッズや美術書なども購入できます。
大阪中之島美術館は、大阪の中核、水都のシンボルである大阪市中之島にあります。
コレクション
中之島美術館は、19世紀後半から現代に至るまでの日本と海外の美術作品を幅広く収蔵しています。そのコレクションは、多岐にわたります。これらは国内外で高い評価を受けており、美術館の誇るべき所蔵品となっています。
寄贈や購入によって集められた国内外の約6,000点以上の作品(2023年4月現在)が収蔵されています。
これには大阪にゆかりのある作品も含まれています。
さらに、重要な寄託品も受け入れており、家具や食器などを含む世界有数のデザインコレクションを形成しています。
作品紹介
浄瑠璃船《木谷 千種(きたに ちぐさ)》
この絵は、夏の大阪を舞台に、大川に浮かぶ夕涼みの屋形船を描いており、落語や物売り、芸能の小舟が賑わう様子が表現されています。
「上るり」と書かれた行燈が照らす浄瑠璃船は、太夫と三味線奏者が乗り込み、浄瑠璃を披露している情景が描かれています。
良家の令嬢が屋形船でこの演目に聞き惚れている様子は、当時の大阪町民の文化や娯楽を垣間見ることができる場面です。
「床本(とこほん)」に書かれた台詞を読む様子や、屋形船で語られる「傾城恋飛脚 新口村の段」という悲恋物語は、江戸時代に大坂で実際に起こった事件を元にしたものであり、遊女梅川と飛脚屋の忠兵衛の物語を描いています。
木谷千種は、この作品を通じて、大坂の夏の風物詩ともいえる浄瑠璃船の風景を、緻密な描写と美しい色使いで再現しています。
絵からは、大阪の歴史的背景と文化が色濃く反映され、当時の人々の生活や楽しみが感じられます。
また、作品には日本の伝統文化や衣装、船の構造に至るまで細部にわたる丁寧な表現が見られ、木谷千種の技術の高さを伺うことができます。
- 「薄い藍墨」や「縹色(はなだいろ)」を背景に使用することで、夏の夕暮れ時の涼やかさを感じさせるとともに、船本体の木地「薄茶色」や行燈の柔らかい灯り「薄黄色」または「淡橙色」が温かみと癒しを感じさせる雰囲気を演出しています。
- 視覚的な中心に配置された演目に熱心に耳を傾ける令嬢の姿は、見る者の視線を引きつけ、物語の中心へと誘います。
- 屋形船が交差する構図は、画面上での動きを生み出し、物語の進行感を強調しています。
- 令嬢の和装の「朱赤」のアクセントは、彼女の存在感を際立たせており、向かいの船床の色を「赤茶」手前の傘の色を「蘇芳」と中心から離れるにつれて、赤色の明度や彩度を段階的に低くすることで、奥行きと空間の広がりを感じさせます。
このように、木谷千種は色と形を巧みに操り、視覚的な調和と物語性を作品に吹き込んでいます。
この絵の構成は、鑑賞者にとって視覚的な楽しみを提供するだけでなく、大坂の夏の風物詩としての浄瑠璃船の文化的背景をも感じさせるものです。
木谷千種の作品は、その繊細な色彩感覚と物語性の豊かさで、日本画の伝統を現代に伝える重要な一翼を担っています。
当時の大阪町民の文化や娯楽の場面を、洒落た且つ臨場感のある構図で描かれています。
アクセス
住 所:〒530-0005 大阪府大阪市北区中之島4丁目3−1
TEL:06-6479-0550(代表)
利用案内
開館時間
10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日
毎週月曜日
※ただし、月曜日が祝日・休日となる場合は開館し、翌火曜日が休館です。
※展覧会により、開館時間、休館日は臨時に変更する場合があります。
観覧料
展覧会の観覧料は各展覧会によって異なります。
※詳細はHPをご確認下さい。
山王美術館
山王美術館は、ホテルモントレ創立者の情熱と献身により、五十数年にわたって収集された美術作品を一般に公開するために設立されました。
2009年8月27日の開館以来、多くの来館者に愛され続けております。
2022年9月2日には、大阪ビジネスパーク内に新たな独立館としてリニューアルオープンを果たしました。
この新しい5階建ての施設では、3フロアに渡る展示室で、訪問者が心ゆくまで美術作品を堪能できる環境が提供されています。
「マルイトOBPビル 増築工事」として、鹿島建設(株)関西支店が建築設計を請け負いました。
山王美術館は、歴史を経て、芸術愛好家により守られ次世代へと受け継がれてきた芸術作品の価値を認識し、その継承と保護に尽力しています。
訪れる人々に美の体験と感動を提供し、共有することを目指しており、美術愛好家や一般の訪問者にとって、芸術に親しむ場としての役割を果たしています。
山王美術館は、大阪市の京橋、大阪城公園の北に位置する大阪を代表するビジネス街・大阪ビジネスパーク内にあります。
コレクション
所蔵する600点以上のコレクションは、西洋絵画、日本洋画、日本画、陶磁器、彫刻など多岐にわたり、ここでしか見ることができない貴重な芸術作品ばかりです。
春と秋の年2回開催されるコレクションに基づく企画展に加え、美術館を代表する作品群を常設展示しています。
作品紹介
断崖観瀑図 《幸野 楳嶺(こうの ばいれい)》
「断崖観瀑図」は、幸野楳嶺による水墨画の傑作です。
この作品は、滝を題材にした伝統的な画題を取り上げており、中国唐時代の詩人・李白の滝を詠んだ詩に着想を得ています。
楳嶺は、円山派や四条派の学びを経て、実物写生を基本に、情感豊かで知性的な構想を作品に加えています。
本作において滝の全景は描かれておらず、滝口も滝壺も画面に収まっていませんが、それがかえって滝の壮大さを際立たせています。
水の流れと岩場に立ち込める水煙が紙幅いっぱいに描かれており、観る者に滝の力強さを感じさせます。
滝の音の響きや、水しぶきに濡れる苔や木々の香りを想像させ、水気を含んだ風が感じられるような描写は、まるで実際に滝が目の前にあるかのような感覚を与えます。
幸野楳嶺の緻密でリアルな水の動きの表現は、視覚だけでなく五感に訴えかける作品となっており、自然の美しさと力強さを感じさせる作品です。
幸野 楳嶺(1844-1895)
1844年京都生
1852年円山派の中島来章の門に入り、来章より雅号を梅嶺、名を直豊、字を思順と与えられました。
1871年に来章の許しをえて四条派の塩川文麟のもとに入門しました。1873年頃から雅号を楳嶺に改めま
した。
来章から花鳥画、文麟から風景画を学び、神山鳳陽について漢籍を学ぶと同時に文人画家たちとも親交を深めました。
1878年望月玉泉らと連署し画学校設立を京都府知事に建議。
1880年の京都府画学校(現・京都市立芸術大学)設立後は、北宗担当として出仕しました。
また、京都美術協会を組織するなど、日本画の発展と後進の指導、育成に尽力しました。門下より、竹内栖鳳、菊池芳文はじめ、川合玉堂、上村松園など京都画壇を代表する多くの画家を輩出しました。
山王美術館 HPより
とても迫力のある滝の絵です。
また、有名な画家を育てられていて日本画の世界で大変貢献された方ですね。
アクセス
住 所:〒540-0001 大阪府大阪市中央区城見2丁目2−27
(ホテルモントレ ラ・スール大阪敷地内)
TEL:06-6942-1117
FAX:06-6942-8700
利用案内
開館時間
10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日
火・水曜日(祝日は開館)
年末年始(12月29日~1月2日)
展示入替期間 ※展示入替期間につきましては、HPにてご確認下さい。
入館料
一般 | 1,300円 | |
---|---|---|
大学生・高校生 | 800円 | ※学生証 提示 |
中学生以下 | 500円 | ※生徒手帳 提示 ※保護者(18歳以上)同伴に限り2名までは無料 |
※詳細はHPをご確認下さい。
小林美術館
小林美術館は、2016(平成28)年6月に開館した日本画専門の美術館です。
創設者であり、館長の小林 英樹氏は、株式会社小林塗料産業の創業者で日本画の愛好家です。
横山大観、上村松園、橋本関雪など、明治期以降の日本画を中心に紹介するほか、藤田嗣治や梅原龍三郎などの洋画も所蔵しています。
彼は、日本画の普及と後進の育成を目的に、自らのコレクションを公開しました。
コレクションは、文化勲章受章作家39人全員の作品を含む約350点に及びます。
「文化勲章」について、小林美術館の公式サイトに詳しく紹介あります。こちらからご覧下さい。
日本画は、紙や絹に墨や顔料で描かれたものであり、光や湿気に弱いため、通常はガラスケースや展示用の照明の下で展示されます。
しかし、小林美術館では、温度や湿度を管理する特殊なシステムを導入し、ガラスケースや照明を使わずに作品を展示しています。
これにより、作品の素材や筆致、色彩などがより鮮明に見えます。
小林美術館では、年4回(春夏秋冬)特別展を、合わせて常設展を開催しています。
週1〜2回行われる「学芸員による展示解説」に申し込み不要・無料で参加する事が出来ます。
小林美術館は、大阪府高石市の浜寺公園の隣にある美術館です。
万葉の時代より「高師の浜」と呼ばれ、「名松100選」に選ばれた美しい松林を誇る公園です。
コレクション
小林美術館のコレクションは、日本画の発展と文化的価値を称えることに特化しています。
「文化勲章の栄誉を受けた日本画家全員の作品を収集する」という館長の理念のもとに、竹内栖鳳、東山魁夷、平山郁夫など、文化勲章受章作家39人の日本画を全て収蔵しています。
また、約350点の作品を所蔵しておりそれぞれの画家が持つ独自の個性と技術の粋を展示しています。
これらを、特別展や常設展を通じて、四季折々のテーマに合わせた日本画の多様性と美しさを紹介しています。
これにより、訪れる人々に日本の伝統美術への理解を深めるとともに、日本画の独自の魅力を伝えています。
作品紹介
傘美人《上村松園》
枝垂れ桜の下、傘を手にした二人の美しい女性を描いています。
上村松園は、女性の品位を繊細に表現することに長けた日本画家として知られており、この作品でも彼女の特徴である繊細な筆致と上品な色使いが光ります。
女性たちが、穏やかな表情と優雅な姿勢で傘を携えています。
背景には控えめながらも、彼女たちの姿を引き立てる枝垂れ桜が描かれています。
品格ある女性たちが描かれたこの作品で、その色彩と柄が視覚的な焦点となっています。
- 手前の女性は薄紫の着物を身にまとい、生成り色の帯には伝統的な亀甲文様が施されています。
- この着物の色合いは穏やかで、古典的な美しさを反映しています。
- 帯の下に垂れる薄紅色の志古貴(しごき)は、女性らしさを象徴し、淡い背景との調和を見せています。
- 朱色の襦袢は絵にアクセントを加え、落ち着いた色の着物との鮮やかな対照を成しています。
- 後ろの女性は控えめな小豆色の着物を着ており、手前の女性を引き立てる役割を果たしています。
- 二人が差す水色の傘は、二人の女性と背景の桜を繋いでおり、絵画の調和とバランスを完璧に仕上げています。
色彩の選択と配置は、彼女の巧みな技術と色彩への深い理解を示しています。
上村松園はこれらの色彩を駆使して、春の柔らかな気候と女性たちの洗練された美しさを象徴的に表現し、日本の伝統的な美意識を表現しています。
この作品は、松園が得意とする女性の品格と優美さを同時に描き出している傑作です。
松園はこの「傘を差す女性」を画題として複数作品を描いています。
この作品は、初期の頃の作品でしょうか。
アクセス
住 所:〒592-0002 大阪府高石市羽衣2丁目2−30 寿光
TEL:072-262-2600
利用案内
開館時間
10:00 〜 17:00( 入館受付は16:30まで)
休館日
月曜日(祝休日の場合は開館し、翌日休館)
※展示替えによる臨時休館あり
入館料
大 人:1,000円
高校・大学生:600円
小学・中学生:300円
(10名以上の団体は2割引)
※詳細はHPをご確認下さい。
「日本画を楽しもう!魅力を感じる美術館〜大阪府〜」のまとめ
この記事では、大阪の美術館の中から、特に日本画の優れたコレクションを持ち、歴史と魅力を伝える施設を紹介しました。
大阪市立美術館
古代から現代までの多様な美術作品を展示し、大阪の文化的風景に色を添える歴史ある美術館
大阪中之島美術館
近現代の美術に焦点を当て、国内外の著名な作品を所蔵し、新しい視点で芸術を鑑賞できる美術館
山王美術館
創立者の私的コレクションから始まり、西洋絵画や日本画を含む幅広いジャンルの作品を展示する美術館。
小林美術館
日本画の普及と次世代の育成を重視し、日本画の発展とその文化的価値を称えることに特化した美術館。豊かなコレクションを通じて、その歴史的重要性と美術としての魅力を伝えています。
各々の美術館が展示を通じて、日本の伝統の美を現代に伝える役割を果たしています。
これらの美術館は、歴史的な名品から現代作家の新しい視点まで、幅広い日本画の世界を展開しています。
ただ美術品を鑑賞するだけでなく、作品が持つ歴史的背景や芸術的価値についても深く学ぶことができます。
大阪の美術館は、日本画の異なる側面を照らし出す展示を行っており、日本画の豊かな世界を体験することができます。
それぞれの美術館が持つ個性と強みを生かし、訪問者には日本画の多様性とその背後にある豊かな歴史を感じてもらえることでしょう。
大阪へ訪問する時は、これらの美術館を是非観に行きたいですね。
日本画の深い歴史と美しさを、自分の目で確かめることができる貴重な機会です。
大阪を訪れる際には、これらの美術館を訪れて、日本画の深い世界を体験してみてください。
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