
日本画で夏の情景を描いてみたい。
何をモチーフにすれば良いのかなぁ…



そんなあなたにおすすめなのが、「浴衣姿でうちわを持つ女性像」です。
皆様、こんにちは。 日本画家の高橋友美(たかはしゆみ)です。
「浴衣姿でうちわを持つ女性像」
このモチーフは、日本の夏の静けさや風情を感じさせる代表的なテーマ。
中でも、洋画家黒田清輝が描いた名作《湖畔》は、そのお手本として非常に有名です。
本記事では、《湖畔》の魅力や構図の工夫、浴衣やうちわの描き方、そして初心者にも取り入れやすい日本画の技法まで、解説していきます。
【なぜ《湖畔》なのか】
- 夏の風情を感じさせるモチーフ(浴衣+団扇)
- シンプルな構図
- 静けさと涼しさを感じさせる色使い
あなたも、《湖畔》をヒントに、自分だけの“夏の一枚”を描いてみませんか?
日本画で描かれる浴衣とうちわの女性像の魅力とは
「浴衣」や「うちわ」は、日本の夏を象徴する代表的なモチーフ。
特に日本画の中では、四季を映す風物詩として頻繁に描かれてきました。
- 浴衣は、布のゆらぎや模様の繰り返しが美しく、布地の描写練習にぴったり
- うちわは、円形の形状や構図のアクセントとして効果的
この2つを組み合わせることで、「涼しさ」や「夏の空気感」が一気に表現できるため、画面の完成度も上がります。



なるほど〜!見ているだけで涼しく情感のある作品ですね。
名作《湖畔》(黒田 清輝)に見る浴衣姿の女性像


1897(明治30)年 油彩・カンヴァス 69.0 x 84.7cm
東京国立近代美術館70周年記念展「重要文化財の秘密」より
「湖畔」《黒田清輝》は、日本の近代洋画を代表する名作のひとつで、浴衣姿でうちわを持つ女性が、箱根・芦ノ湖のほとりで涼んでいる情景が描かれています。
この作品が発表されたのは1897(明治30)年、
当時の白馬会展では《避暑》という題で展示されました。
その後、1900(明治33)年のパリ万博にも出品されました。
当時としてはとても珍しい、日常の一瞬を切り取ったような構図と、淡い光に包まれた繊細な表現が大きな注目を集めました。
モデルは黒田の妻・照子夫人。
実際に黒田とともに箱根に避暑に訪れたときのエピソードが元になっています。
後年、照子夫人はこう語っています:
「23歳のとき、主人が湖畔で制作しているのを見に行きますと、『そこの石に腰かけてみてくれ』と頼まれ、そのままモデルになりました。雨や霧の日もあって、完成には1ヶ月ほどかかりました。」
文化遺産オンライン より



このエピソードからもわかるように、作品には身近な人を慈しむようなまなざしが感じられます。
《湖畔》の構図と描き方のポイント
- 自然光の表現:全体が柔らかな光に包まれ、湿気を含んだ高原の空気感を見事に再現。
- 人物のポーズ:石に腰かけ、静かに視線を落とす女性の姿が、夏の涼しさとしっとりとした情緒を感じさせます。
- 色彩と筆致:色数は少なめながら、浴衣や肌の表現は非常に丁寧。筆づかいはなめらかで、日本画的な繊細さも持っています。
初心者にとっての学びポイント
- 構図は中央に人物を置きつつも、背景に奥行きがある。
- うちわや浴衣の柄は主張しすぎず、人物の表情と雰囲気に集中できる。
- 日本画での「余白」や「空気の描写」にも応用できる光と影の扱い方が学べる。
このように《湖畔》は、モチーフ・構図・空気感・描写のどれをとっても参考になる作品です。
とくに「浴衣を着た女性を、うちわと共に描きたい」と考えている方には、最適な教材とも言えるでしょう。
黒田 清輝(くろだ せいき)について – 日本近代洋画の礎を築いた先駆者 -
1866(慶応2)年8月9日 – 1924(大正13)年7月15日
薩摩藩(現在の鹿児島県鹿児島市)出身
黒田清輝は、明治から大正期にかけて、日本の近代洋画を切り拓いた画家であり、美術教育者・美術行政家としても多大な功績を残しました。
幼少期に、伯父・黒田清綱の養子となり上京。
その後フランスに留学します。
当初は法律を学ぶ目的で渡仏しましたが、まもなく絵画の道に転じ、ラファエル・コランに師事。
フランス滞在中の約9年間にわたり、アカデミックな技法とともに、明るい自然光を取り入れた印象派的な表現を学びました。
1893(明治26)年に帰国すると、それまで日本にはなかった“外光表現”を紹介し、日本洋画界に革新をもたらします。
1896(明治29)年には、美術団体「白馬会」を創設し、同年開設された東京美術学校(現・東京藝術大学)の西洋画科初代教授に就任。
若き才能を育成し、日本の美術教育の基盤を築きました。
画家としては、印象派的な作品のみならず、《智・感・情》《昔語り》などのアカデミックな構想画にも意欲的に取り組み、本格的な西洋絵画の導入にも尽力しました。
晩年には貴族院議員や帝国美術院長を務め、政策面からも美術界の発展に貢献しました。
日本の近代美術を語る上で、黒田清輝の存在は欠かすことができません。
彼のまいた種は、後進の画家たちに受け継がれ、今日の日本美術の礎となっています。


日本画「浴衣とうちわの女性像」参考作品
浴衣姿で団扇を持つ女性像は、日本画において“夏の情緒”と“美人画の魅力”を兼ね備えた人気のモチーフです。
ここでは、構図・描き方・雰囲気の参考になる代表的な作品を厳選してご紹介します。
高砂染浴衣美人百姿・其一八《伊東 深水(いとう しんすい)》


伊東深水の木版画 昭和六年初夏高砂染浴衣美人百姿其の十八 左側:水天宮前喜扇堂発行 の印字が有ります。
- 概要:昭和初期の美人画の第一人者。浴衣姿・うちわ・金魚・風鈴など、夏の風物と女性を繊細に描いた作品多数。
- 構図の特長:立ち姿、正座、後ろ姿、手元のしぐさまで幅広い。団扇の使い方もバリエーションが豊富。
- 描き手へのヒント:着物の模様や帯の扱い、手の添え方など、写実と装飾のバランス感覚が学びやすい。




伊東 深水(いとう しんすい)について
1898(明治31)年2月4日 – 1972(昭和47)年5月8日
東京深川(現東京都江東区森下)出身
本名:伊東一
。
娘に女優の朝丘雪路を持ち、その芸術的才能は次世代へと受け継がれています。
深水は、幼い頃から絵に親しみ、中山秋湖に日本画を学びます。
13歳で美人画の名匠・鏑木清方に師事。
「深川の水」にちなみ「深水」の号を授かります。
昼は働き、夜は実業補習学校で学び、深夜に制作を続けるという厳しい修練を積み重ねました。
画家としての道を決定づけたのは、速水御舟の作品に触れたこと。
その深い感銘が、日本画への強い決意を生みます。
16歳で再興院展に、翌年には文展に入選するなど、若くしてその才能が高く評価されました。
大正末期から戦後にかけては官展や日展で活躍しました。
伊東深水の美人画は、健康的で明朗、しかも色香を感じさせる洗練された描写が特徴です。
伝統的な浮世絵の形式を大切にしつつも、現代風俗に真摯に向き合い、新たな表現に挑み続けました。
その作品は、多くの人々に親しまれ、今もなお高い評価を受け続けています。
1914(大正3年)年 再興院展入選
1915(大正4年)文展入選
1948(昭和23)年 日本芸術院賞受賞
1958(昭和33)年 日本芸術院会員
《森本 純(もりもと じゅん)》


- 概要:柔らかな描線と淡い光をたたえた女性像を描く現代日本画家。浴衣姿でうちわを手にした作品も複数あり、現代の感性と伝統美が調和している。
- 構図の特長:画面に余白を活かし、静けさと奥行きを持たせた構成。団扇や浴衣の色柄が空気をつくる要素として機能している。
- 描き手へのヒント:彩色の抑え方や、表情の微細な陰影表現は、初心者が「空気感を描く」練習にぴったり。









「ああ、これが私の描きたかった女性像だ✨」
——画廊で初めて目にしたとき、そう思える日本画作品に、ようやく出会えた気がしました💖
森本 純(もりもと じゅん)について
森本 純先生は、絹本に繊細な筆致で美しい女性像を描く、美人画の名手として知られる日本画家です。
写実絵画の巨匠と称される洋画家・森本草介氏を父に持ち、祖父・仁平氏もまた洋画家という芸術一家に生まれました。
純氏はその画業を受け継ぎ、日本画の世界で独自の美を追求しています。
作品は『美人画づくし』などの書籍にも多数掲載され、多くのファンに親しまれています。
1970(昭和45)年生
東京都中野区出身
1994(平成6)年 武蔵野美術大学造形学部日本画学科卒業
2008(平成20)年 春風洞画廊にて初個展
2009(平成21)年 「ようようの会」展(〜2013〈平成25〉年・春風洞画廊)
2010(平成22)年 「伝統からの創造 21世紀展」初出品(〜2015〈平成27〉年・東京美術倶楽部)
2011(平成23)年 青渓会日本画展(以降毎年出品・横浜高島屋)
「東日本大震災チャリティオークション 今日の美術展」(東京美術倶楽部)
2012(平成24)年 個展「森本純展」(東美アートフェア・春風洞画廊)
2013(平成25)年 一朶会展(一心堂画廊)
2016(平成28)年 「創と造 2016」(東京美術倶楽部)
2017(平成29)年 個展「森本純展 2017」(アートフェア東京・春風洞画廊)
2021(令和3)年 個展「森本純 日本画展」(春風洞画廊)
2023(令和5)年 個展「森本純 新作展」(東美アートフェア・春風洞画廊)
現在 無所属
日本画初心者に向けたおすすめの描き方


まずは、参考にしたい好きな作品を簡単に模写してみるところからで良いので描いてみましょう。
必要な道具
- 水干絵具 or 顔彩(発色が柔らかく初心者に最適)
- 和紙(または色紙)
- 面相筆・彩色筆(少ない本数でも十分)
- にかわ(必要に応じて)
描き方
- 下描き(薄い鉛筆or薄墨)で構図を整える
- 輪郭線を筆でなぞる(墨や濃色で)
- 色を淡いものから順に重ねる(しっかり乾かしてから)
- 模様や細部を描き込む
- 最後に金泥や白抜きでアクセントを加える(必要に応じて)
浴衣姿の女性像を美しく描くために


浴衣の描写で重要なのは、線の美しさと模様のバランスです。
初心者におすすめのポイント
- 柄は「朝顔」「流水」「金魚」などの伝統模様から描いてみる
- 色彩は、藍色系、浅葱色など、日本的な伝統的な色を選ぶ
- しわや揺れの表現は、大胆な線よりもやわらかい筆致で描く
女性は曲線、うちわは、幾何学的な工芸品としての組み合わせがバランスが良いです。
うちわの描き方と日本画における構図
うちわは単体でも描けますが、「手に持たせる」「膝にのせる」「風にあおぐ動作を描く」といった使い方で構図に動きや涼感を与えることができます。
うちわを描くときのコツ
- 形は完全な形でなくてもOK(少しつぶれた形の方が自然)
- 素材の「和紙感」は、にじみや余白で表現
- 持ち手の竹や影を加えることで立体感が増す
女性の身体は柔らかく流れるような曲線で構成されています。
一方で、団扇は幾何学的な工芸品としての形と模様が特徴的です。
この対比が、画面にバランスの良い美しさを生み出します。
浴衣とうちわを組み合わせた女性像


背景に、あえて何も描かないことで、女性像を際立たせることができます。
背景を入れる場合は、と水辺(湖、川など)花火、夏祭りなどを組み合わせることで、“日本画らしい夏の情景”を演出できます。





ぜひ、あなたの夏の一枚を描いてみて下さいね。



はい、さっそく描いてみます!


【名作《湖畔》(黒田清輝)から学ぼう!】日本画で描く浴衣姿でうちわを持つ女性像|まとめ
黒田清輝の《湖畔》は、静けさと夏の風情が見事に調和した傑作です。
日本画で描かれる浴衣とうちわの女性像の魅力
。
名作《湖畔》(黒田清輝)に見る浴衣姿の女性像の描き方
。
日本画「浴衣とうちわの女性像」参考作品
。
。
日本画初心者におすすめの画材と描き方
この作品を通して学べるのは、浴衣やうちわという季節のモチーフだけでなく、「構図の取り方」「光の使い方」「余白の美しさ」など、日本画に欠かせない要素そのもの。
初心者の方でも、少しずつ模写や構成の練習をしながら、《湖畔》のような情緒ある一枚を描くことができます。
最初は線や構図に迷うかもしれません。でも、それも絵を描く楽しさの一部です。
好きな浴衣柄、思い出の風景、あなたらしい一枚を、表現してみましょう。



一歩ずつ、一筆ずつ。
あなたの夏が、きっと素敵な作品になりますように。











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