
『胡粉(ごふん)』って何?
何からできているの?



日本画の「白」絵具『胡粉(ごふん)』…
なぜ、そう呼ばれるの?



『胡粉(ごふん)』…
ダマになったりひび割れたり、凹凸やムラになったり…
難しいのに、なぜよく使われるようになったの?
種類も多いし…



確かに、一筋縄ではいかない絵具ですね。
まずは「これだけ押さえておけば大丈夫!」という
『胡粉(ごふん)』の基礎知識と、失敗しないためのコツを
一緒に見ていきましょう!
チューブから出せばすぐに描ける洋画の画材とは異なり、
日本画では、『胡粉』を細かくすり潰し、膠と練り合わせて「白」絵具にする工程が必要です。
『胡粉』は性質を知らないまま使うと、
ひび割れたり、剥がれたり、必ずと言っていいほど失敗してしまいます。



やっぱり難しいんじゃないの…?



そう思うかもしれませんが、安心してください。
胡粉は『なぜ失敗したのか?』という原因が分かりやすい画材なので、
基本の扱い方を知れば、誰でも上達していくことができます!
今回は、日本画初心者が知っておくべき胡粉の種類から基礎知識、おすすめの選び方・扱い方までを詳しく解説します。
日本画の「白」:『胡粉(ごふん)』その歴史と成り立ち
日本画の魅力は、岩絵具や胡粉など「粒子を持つ画材」が光を受けて生む、奥行きにあります。
中でも胡粉は、ただの白ではありません。
- 白を置く
- 発色を整える
- 下地を作る
- 厚みを出す
――胡粉が入るだけで、画面の雰囲気が変わります。
日本画の「白」として欠かせない胡粉ですが、その正体は一体何なのでしょうか。
まずは、その不思議な名前の由来と、原料の秘密から紐解いていきましょう。
日本の白絵具「胡粉」の歴史


「胡粉(ごふん)」という名前の「胡(ご)」という字は、中国から見て西側の地域(西域)を指す言葉です。
シルクロードを通って日本に伝わってきました。
それは現在「鉛白(えんぱく)」と呼ばれる「鉛」を原料としたもので、化粧品(おしろい)として、また絵画材料の白色顔料として使われるようになりました。
「胡の国からもたらされた白い粉」、それが『胡粉(ごふん)』と呼ばれるようになりました。
「胡粉」は、時代によって主流となる素材が変化してきました。
白土(はくど・しらつち)


ナカガワ胡粉
PIGMENT TOKYO より
室町時代頃まで白色の代表的な顔料として使われてきました。
- 色は少しグレーや茶色味を帯びた、自然で深みのある色調をしています。
- 天然の土から作られた土性顔料(土絵具)です。(鉱物・無機物)
- いわゆる粘土で、ケイ酸やアルミニウム、カオリンなどを主成分としており、陶磁器などに重用されています。
- 日本画では、現在でも古い作品の模写や修復などに使われます。
鉛白(えんぱく)


Wikipedia より
奈良時代頃に日本に伝わってきた最初の白色顔料です。
洋画の油彩絵具で使われる「シルバーホワイト」も、これと同じ原料から作られています。
- 色は隠蔽率(下地を隠す力)が高くて重厚感があり、艶のある美しい白です。
- 鉛から作られたものです。(鉱物・無機物)
- 酸化することで基底材(木地)に喰い付き、堅牢な下地が得られます。
- 日本でもかつて古代絵画や正倉院の宝物等、上塗りや人物の顔などにもよく使われていました。。



現在の胡粉の原料は貝殻ですよね。
なぜ変わったんですか?



日本の気候と深刻な健康被害が
影響しています。
- 鉛白は、高温多湿の気候や「朱」との混色、硫黄化合物との混合で黒く変色(黒変)してしまうという性質があります。
- 水性顔料は硫黄成分を遮ることができず変色を防ぐことができないため、日本画には適しておりません。
- 健康被害の恐れがあります。
【豆知識】鉛白は猛毒!?
奈良時代に日本に伝わった最初の胡粉「鉛白」は、その名の通り「鉛」(金属)から作られており、実は猛毒です。
江戸時代まで化粧の「おしろい」として、白絵の具(浮世絵の顔料)としても使われていましたが、「鉛中毒」という重篤な健康被害に苦しむ人が多く、のちに国から製造・使用が禁止されました。
現在、一部メーカーが「鉛白」を販売し続けているのは、文化財の修復・復元、および古典技法の研究・再現に不可欠だからです。
また、鉛白にしかない特有の「絵具としての伸びの良さ」や「冷たく美しい緊迫感のある白」に魅了され、あえて自身の表現のために、《毒性や変色のリスクを完全に理解し、防塵対策(マスクや手袋の着用)を徹底した上で》使用するこだわりの強い現代の作家もごく一部に存在します。
不用意に接触したり体内に入らないように対策が必要です。
胡粉(ごふん)


奈良時代(700年代)から登場して1300年代頃からとか1400年頃(鎌倉時代)から主流になりました。
- 色は暖かみがあり光を反射するような明るさを持つ白です。
- イタボガキ等の貝殻が主な原料です。(有機物)
- 貝殻を風化させ砕いて作る顔料です。
- 剥落しやすいので丁寧に溶いてから使用する必要があります。
湿度の高い日本の風土に合い、かつ繊細な表現ができるとして、現在まで日本画に欠かせない顔料となっています。
その他の白絵具
胡粉以外にも、様々な白絵具があります。


岩胡粉
原料:
鉱石(大理石)
特徴:
自然由来の原料を粉砕して粒子状にした顔料です。
粒度:
10段階(粗[5,6,7,8,9,10,11,12,13,白]細)
※粒度の単位(番手)は、5番〜13番および「白」で表されます。
天然 岩胡粉 白
PIGMENT TOKYOより


岩白
原料:
顔料とガラス
特徴:
着色ガラスを粉砕して粒子状にした顔料です。
粒度:
10段階(粗[5,6,7,8,9,10,11,12,13,白]細)
※粒度の単位(番手)は、5番〜13番および「白」で表されます。
新岩絵具 岩白 白
PIBMENT TOKYOより


チタン胡粉
原料:
胡粉と酸化チタン
特徴:
冷たさのある強い白で隠蔽率が高いです。
「チタニウムホワイト」とも呼ばれています。
画面をコートしたような滑らかな光沢感と平滑な仕上がりです。


方解末
原料:方解石
特徴:
自然由来の原料を粉砕して粒子状にした顔料です。
やや透明感があり、濡れた状態と乾いた状態、または混ぜる膠の質によって、透け感や白さが変化します。
用途:
- 単体の「白」
- 補強や増量剤:
他の絵具や胡粉と合わせて使用します。 - 質感・盛り上げ:
板状の粒子が引っかかりを作るため、下地のテクスチャー作りや部分的な盛り上げ表現に最適です。
粒度:
10段階10段階(粗[5,6,7,8,9,10,11,12,13,白]細)
※粒度の単位(番手)は、5番〜13番および「白」で表されます。
天然 純方解末 白
PIGMENT TOKYOより


水晶末
原料:水晶
特徴:
自然由来の原料を粉砕して粒子状にした顔料です。
透明だけど細かい粉末状だと白く見えます。
重ね塗りをしていくと半透明の仕上がりになります。
粒度:
10段階(粗[5,6,7,8,9,10,11,12,13,白]細)
※粒度の単位(番手)は、5番〜13番および「白」で表されます。
天然 水晶末 白
PIGMENT TOKYOより
💡 補足
「白」絵具全般の詳細については、別記事に掲載予定です。
胡粉の原料と製法


「画材と技法」林功・箱崎睦昌 河北倫明 同朋社 角川書店より
現在、日本画で使われている胡粉の主な原料は、「イタボガキ」などの牡蠣の貝殻です。🦪
※近年は、漁獲量の激減により、「ホタテ貝殻」を原料とする胡粉も多く流通しています。
しかし、ただ貝殻を砕いて粉にするわけではありません。
原料となる貝殻は、野外で5年〜10年以上もの間、雨風にさらして自然に風化させます。
この長い風化期間を経ることで、貝殻に含まれる有機物などの不純物が分解されます。
途方もない時間をかけて不純物を抜き、そこからさらに石などを取り除いたり厳密に選別されてから、
ようやく発色の良い純白の顔料になります。



柔らかく温かみのある白色は、大自然の力と長い長い時間が作り出しているんですね。
胡粉の種類と選び方







胡粉にも、いくつか種類があります。
最初は何を選べば良いのでしょうか?



日本画制作では、「用途」によって使い分けます。
胡粉は、製品によって明確に等級(グレード)が分かれています。
部位による違い
イタボガキの貝殻には「身」の側と「蓋(ふた)」の側があり、「蓋」の方から作られた胡粉が高級品とされています。
大きさ(年数)による違い
海の中で長く生きた大きな貝殻の蓋から作られたものが、日本画用として最高級品になります。
ところが、常に最高級品が良いとは限りません。
例えば、花びらなどをぽってりと立体的に描く「起上げ」という技法に使う胡粉や、下塗りしたい場合は、
あえて粒子の粗い(等級の低い)胡粉の方が適しています。
このように、
- 下塗り用
- 仕上げ用
- 特殊技法用など
「自分がどう表現したいか(用途)」に合わせて胡粉の種類を使い分けることが大切です。



日本画制作の「用途」や「表現」によって、
「粒子の大きさ」や「色味」を選んでゆくと良いのですね✨
胡粉の種類
グレード・等級による種類(品質・部位の違い)
仕上げ・上塗り用


部位:
大きなイタボ牡蠣やホタテ貝殻の上質な部分だけを厳選した最高級品。
明るい純白で、絵の仕上げや細部描画に使われます。
ナカガワ胡粉:金鳳
上羽絵惣:飛切
部位:やや若いイタボ牡蠣やホタテ貝殻の上質な部分を使用しています。上質品に当たります。
仕上げや中塗りに幅広く使えます。
ナカガワ胡粉:白壽
上羽絵惣:白鳳
下地・中塗り用
形状・加工による種類
板流し(フレーク状)




一般的な胡粉の形状になります。
空擦り(※)して、膠を混ぜて胡粉団子を作る必要があります。
※空擦り:乳鉢で擦り潰す工程のこと
粉末状




空擦りが不要です。
膠を混ぜて胡粉団子を作る必要があります。


練り胡粉


※返礼品
顔彩を用いて描いた色紙画
用途別/胡粉の選び方
胡粉の役割は、白絵具としてではなく、「下地の調整」「白の表現」「盛り上げて立体感を出す」等様々な表現ができます。












白い花びら
粒子が細かいほどなめらかでムラが出にくく、粗いほど白の力強さや質感が出やすいです。
色味
胡粉には真っ白に見えるもの、少し温かみ(生成り寄り)に見えるものがあります。


左:放光堂「壱号」 右:上羽絵惣「飛切」
肌や花びらは温かみがある方、雪・紙の白さを強調したい場面では白さの強いタイプなど、表現したい白の色味を選ぶと良いでしょう。
あなたが描きたいモチーフに合わせて選ぶのが正解です。
初心者は最初から全部揃える必要はなく、まずは“下地にも彩色にも使える中間(中〜やや粗め)タイプと、仕上げ用に細かいタイプ(細め)の2つの段階の胡粉から始めると良いでしょう。
胡粉の溶き方
基本的な胡粉の溶き方
一般的に胡粉といえば、「板流し」と呼ばれるフレーク状の物を指します。
そのままでは使えないので、絵の具にする工程があります。
その基本的な手順をご紹介します。
用意するもの
胡粉 適量(作りやすい量)
濃いめの膠 適量
あく抜き用のお湯(熱湯)
水 適量
使用する道具
乳鉢:1つ
乳棒:1本
広めの絵皿:1枚


胡粉を粉末状にします。


濃いめの膠水を乳鉢に少量ずつ入れ、乳棒でよくこねます。
粉っぽさがなくなるように擦りながら馴染ませます。




広い絵皿に何度も叩き付けて、
更に胡粉の粒子と膠を均一になじませます。


渦巻きを作りながら鍋に入れ、60度くらいのお湯であく抜きします。




あく抜きしたお湯は捨ててから、絵皿に移して、水で少しずつ溶かしながら使います。





空擦りして、胡粉団子にする工程があるのはなぜ?



粒子を細かくすると膠が絡みやすくなるためであり、画面に平滑に置けるようにするためです。
二つ折りにした紙の間に挟んで細かくした後、膠と合わせて水で溶いて使うことができます。
※但し、きめを細かくしたいときは、手間を惜しまず、団子状にして溶いた方が良いでしょう。
用途別の作り方
実は、胡粉の溶き方については、今も様々な研究がされています。


溶き方も様々ありますが、基本は、細かな粒子にして膠と馴染ませる事
何より、丁寧に作ることが最大のコツです。
胡粉の扱いで一番大事なのは、「膠(にかわ)と水分量」です。
そして必ずやってほしいのが、試し塗りによる定着の確認です。
絵具を塗って乾かし、指で軽くこすります。
粉が取れる:膠が薄い/水分が多い可能性。
テカる:膠が濃い可能性。
ムラが出る:練り不足。筆圧が強すぎる、乾燥する前に重ねてしまったから。
胡粉の使い方
胡粉の様々な使い方をご紹介します。
下地
下地として使う場合は、支持体の吸い込みを整え、上に乗る岩絵具の発色を助けます。
彩色
彩色の途中で使う場合は、不透明な白としてハイライトを入れたり、混色して色を少し落ち着かせたりできます。
仕上げ
一筆で決める線(花のシベなど)、
コツは、胡粉を“置く”と意識することです。
胡粉の保存方法
あく抜きした後、団子状にして、水を張った広口瓶などに入れて冷蔵庫に保存します。
保存期間:1週間〜2週間程度
使う時は、使用する分を絵皿にとり、ぬるま湯で溶き下ろします。
胡粉を扱う上でのよくある失敗と解決策
胡粉は、粒が紙の上に残るからこそ美しい反面、条件が合わないと粉っぽくなったり、ひび割れたりします。
胡粉を扱う上での主な失敗と対策法をご紹介します。
ひび割れ
膠が濃すぎる/厚塗り/乾燥の負担が原因です。
対応防止策:薄い層で重ね、乾かしてから次へ進むと改善します。
粉落ち・剥がれ
膠が薄い/支持体の吸い込みが強すぎる/下層が不安定な可能性。
対応防止策:膠の濃度を見直し、下地の整えを検討します。
ムラ・ダマ
練り不足、水分量、筆圧の影響が大きいです。
対応防止策:最初に少量の膠で少しずつ、よく練るようにする→水でのばす→筆圧を軽く、が基本です。
凸凹
描いたあと、乾いてから凸凹になってしまうのは、元々の胡粉の性質です。
均一に整える、綺麗に盛り上げる為には、そのために加工した胡粉を用いなければなりません。
対応防止策:
均一に整えたい場合、薄い胡粉をかけて、乾いてから次にかけるというふうに、何度か重ねていくことです。
平滑に盛り上げたい場合は、乾いても凸凹にならない胡粉を使用します。
そのための胡粉を、時間はかかりますが作ることも可能です。
胡粉は難しく見えますが、伸びを決めるのは才能より画材の理解です。
まずは「試し塗り」「定着の確認」を習慣にしてください。



胡粉が安定して使えるようになると、日本画全体が一段描きやすくなります。
使いたい胡粉を手に入れるためには?信頼できる老舗・専門の日本画画材店
自分が使いたい胡粉を手に入れるためには、長年実績のある老舗画材店やメーカー、専門ショップを利用するのが安心です。
ナカガワ胡粉絵具株式会社(胡粉や岩絵具の製造元として有名)
上羽絵惣(うえばえそう)(京都の日本画用具・顔料の老舗)
更に、別記事にて老舗日本画画材店、オンラインショップをご紹介しています。
こちらもぜひご覧ください。




初めて購入する場合は、各メーカーの公式サイトや専門の画材店で、自分の表現に合ったものをじっくり選んでみてください。
実店舗に足を運べる場合は、
お店のスタッフの方に「何に描くか」「どんな表現をしたいか」を伝えて相談に乗ってもらう
のもおすすめです。



初心者の方でも、ぴったりの銘柄や使い方を丁寧にアドバイスしてくれます。
「日本画画材「胡粉」とは?伝統的な白絵具の種類と使い方を徹底解説!」のまとめ
この記事では、伝統的な日本画画材白絵具「胡粉」の種類と使い方を解説しました。
日本画の「白」:『胡粉(ごふん)』その歴史と成り立ち
胡粉は、シルクロードを通って伝わった白い粉に由来し、時代とともに鉛や土から、湿度の高い日本の風土に合う貝殻へと主流が移り変わってきました。
胡粉の種類と選び方
胡粉は粒子の大きさや部位によって等級が分かれ、下塗り・仕上げ・盛り上げなど、描きたい表現に合わせて選ぶのがポイントです。
胡粉の溶き方
空擦りをして膠となじませ、団子にして丁寧に練り上げることが基本で、仕上がりを左右するのは膠と水分量、そして試し塗りでの確認です。
胡粉を扱う上でのよくある失敗と解決策
ひび割れや粉落ち、ムラなどは、薄く重ねる・膠の濃度を見直すなど、原因に合わせた対処で防ぎやすくなります。
使いたい胡粉を手に入れるためには?信頼できる老舗・専門の日本画画材店
胡粉は、長年の実績がある老舗やメーカー、専門店で、描きたい表現を伝えながら選ぶと安心です。



「胡粉」は、シルクロードを通って伝わった白い粉が名前の由来で、悠久の時を経て貝殻から作られる絵具なんですね。



種類が多くて迷っていましたが、「下塗り」「仕上げ」「盛り上げ」と、描きたい表現に合わせて選べばいいんですね。



ダマやひび割れも、膠と水分量を意識して、丁寧に溶いて、試し塗りをすれば、防ぎやすくなるんですね。



ぜひ楽しんでくださいね!
胡粉を使いこなして、白をはじめ、表現の幅を広げていけますように。













